喫煙と代謝および肥満
清野 裕*1
はじめに
喫煙は糖代謝や骨代謝や肥満に影響を与えることが知られている。本項では糖代謝・糖尿病や骨代謝、肥満と喫煙の関係について、喫煙科学研究財団の助成によってなされた研究業績を中心に、欧米における最近の知見についても紹介する。糖代謝については井村、清野、春日が、糖尿病は井村、清野、肥満は吉田、井上、倉橋、骨代謝は藤田、赤血球代謝については三輪が当財団の助成をうけた。
糖尿病
糖尿病と喫煙は、動脈硬化の独立した危険因子である。糖尿病は、厚生省の疫学調査により、日本人の 40 才以上では 10 人に1人が罹患していることが明らかとなり、新たな国民病として注目されている。そこで、喫煙と糖代謝の関係について述べる。
1)喫煙の膵内分泌・血糖に及ぼす影響
まず喫煙の血糖値への影響として、喫煙者 20 名と非喫煙者 20 名でブドウ糖負荷後の血糖曲線には差は認められないとする Facchini ら1)の報告がある。しかし、糖負荷後のインスリン反応は喫煙者で有意に高反応であり、インスリン抵抗性の存在が疑われた。そこで彼らは、喫煙者と非喫煙者に内因性のインスリン分泌を抑制するソマトスタチンを注入しながら、一定量のインスリンとブドウ糖を注入し、血糖とインスリンが一定に達した平均値を算出した。その結果、平均血中インスリン濃度には差が認められなかったが、平均血糖値は喫煙者で有意の上昇を認めたので、喫煙者ではブドウ糖処理能の低下、すなわちインスリン抵抗性が存在すると述べている。一方、Block ら2)は、インスリンクランプ法を用いてインスリン感受性を検討したところ、体脂肪は感受性の低下に影響を与えるが、喫煙や飲酒などは影響を与えなかったとしている。春日ら34)-39)は、喫煙のインスリン作用への影響を直接解明するために、ラットを Hamburg II型喫煙装置を用いて強制喫煙させ、肝や腎のインスリン受容体について検討を加え、蛋白あたりのインスリン受容体数、インスリン受容体あたりの受容体リン酸化に、喫煙はほとんど影響しないことを明らかにした。さらに春日らは、インスリン受容体以降の情報伝達系についても検討を加えた。すなわち、骨格筋と脂肪組織におけるホスホイノシトール3燐酸化能、糖輸送担体1と4について喫煙の影響を検討したが、影響はみられなかったとしている。したがって、喫煙が細胞レベル、分子レベルでインスリン作用を障害する可能性は現在のところ否定的である。
井村ら40)は、健常人を対象に両切りピースを喫煙させ、その前後で血糖を測定したところ、わずかながらも血糖が有意に上昇することを確認している。Taminato, Seino ら3)は、アルギニン静注時の血糖増加は喫煙により増強されることを報告し、同時に測定したグルカゴン分泌は影響をうけないが、インスリン分泌は喫煙により減弱することを認めている。しかし、 Epifano4) は、グルカゴン負荷によるインスリン分泌は喫煙や経皮的ニコチン投与では影響されなかったと報告している。また Tjalve ら5)は、高濃度のニコチンはグルコースによるインスリン分泌を抑制し、低濃度のニコチンはインスリン分泌を促進すると述べている。ニコチンは低濃度では副交感神経節を刺激し、高濃度では抑制するといわれている。副交感神経の刺激はインスリン分泌を促進するので、ニコチンは副交感神経を介してインスリン分泌に影響を与えることが推測される。
さらに井村ら41)は、喫煙の膵β細胞への影響を分子レベルで検討するため、強制喫煙させたラットを用いて検討を加えた。その結果、強制喫煙群では血中インスリンの低下を認めたが、膵インスリン含量やインスリン遺伝子の発現には変化が認められなかったので、喫煙はインスリン合成には影響を与えず、分泌過程に影響すると結論した。
2)喫煙習慣と糖尿病
前述のように喫煙がインスリンの分泌や作用に影響を与える可能性があることから、喫煙が糖尿病発症の危険因子になるか否かはきわめて重要な問題である。
津田ら6)は、地域住民と受診者構成がかなり類似している人間ドック受診者を対象に、糖尿病と種々の生活習慣について検討を加えた。喫煙者の割合には地域差が認められた。すなわち、郊外では耐糖能正常、IGT(Impaired Glucose Tolerance:耐糖能障害)、糖尿病の各群で喫煙率に差を認めなかった。しかし、都市部においては喫煙率は高率で、とくに糖尿病群では耐糖能正常群、IGTに比し有意に高く、また農村部の糖尿病とくらべても有意の高率であった。喫煙指数を算出して 500 以上の値を示す割合をみても、都市部の糖尿病群で有意の高率を示した。さらに井村ら42)は、定期的に人間ドックを受診して糖尿病を発症した例を対象に、ライフスタイルと発症率の関係を検討した(表-1)。その結果、喫煙者は非喫煙者に比し、糖尿病発症率は高率であったが、有意の差ではなかった。一方、 Rimm ら7)は、喫煙と糖尿病の発症率の関係を検討するため、114,247 名の非糖尿病女性看護婦について 12 年間の prospective study を行ったところ、2,333 名が糖尿病を発症し、肥満やそのほかのリスクを補正しても、1日 25本以上の喫煙者は、非喫煙者に比し糖尿病発症の危険率が 1.42 倍に増加しており、喫煙は糖尿病の独立した危険因子であったと報告している。
このようなことから、患者の自己申告だけでは信頼性に乏しく、糖尿病者における喫煙についてより客観的に把握する必要があることが示唆された。Phillipou ら8)は、ニコチンの代謝産物である尿中コチニンを ELISA 法で測定することにより、喫煙の実態を客観的に把握できるとしている。
また、後述するように、喫煙は糖尿病の合併症に対し好ましくないとする成績もある。そこで、糖尿病患者を対象とする禁煙の指導法について検討した成績を示す。Sawicki ら9)は、禁煙プログラムに参加した糖尿病患者 89 名のうち、44 名を心理療法士の指導にゆだねたところ、3名(5%)に禁煙が確認された。これは、対照とした担当医からの禁煙アドバイスをうけたもの 45 名のうちの7名(16%)に比し、有意ではないものの低率で、期待されたほどの効果は認められていない。
3)喫煙の糖尿病性大血管障害に及ぼす影響
喫煙と糖尿病はそれぞれ独立した動脈硬化の危険因子である。糖尿病患者を対象にした検討でも、喫煙は心血管障害の危険因子であるとする報告が多い。Morrish ら10)は、497 例の糖尿病患者(インスリン依存型糖尿病;IDDM 243 名、インスリン非依存型糖尿病;NIDDM 254 名)について平均 8.3 年の観察を行い、単変量解析の結果、ECG(Electrocardiogram:心電図) の虚血性変化をきたす危険因子として、NIDDM では喫煙をあげている。さらに喫煙は、NIDDM における新たな急性心筋梗塞や虚血性心疾患の危険因子であるとしている。さらに多変量解析の結果でも、喫煙は NIDDM では ECG の虚血性変化、新たな心筋梗塞、新たな虚血性心疾患の危険因子であり、IDDM でも新たな心筋梗塞、新たな虚血性心疾患の危険因子であったとして、糖尿病患者において喫煙は大血管障害の重要な危険因子であると指摘している。Stamler ら11)は、米国内における 35~57 才の男性 361,662 名について検討を加え、心臓死に対して糖尿病は大きな危険因子(約3倍)であると報告した。また、糖尿病の有無にかかわらず、喫煙、高コレステロール、高血圧は危険因子であり、糖尿病患者にこの3つの危険因子のいずれかまたは複数の組合せが共存すると、危険率の増加は、非糖尿病者に比し著しく高率となると指摘している。Samuelsson ら12)も、686 名の高血圧患者における心臓死について prospective study を行い、調査開始時点で糖尿病と喫煙が共存していたものでは明かに予後不良であるとしている。一方、DeStefano ら13)は、脳内出血、クモ膜下出血に対して喫煙は統計学的には危険因子になりえず、糖尿病で補正しても有意ではなかったと報じている。
Gay ら14)によると、インスリン依存型糖尿病患者で喫煙する例では、喫煙しない例の2~3倍、非喫煙の健常者の3~10 倍の高い疾病有病率を示している。井村ら43)は、糖尿病患者の心電図異常について疫学的検討を行った。その結果、糖尿病患者では高率に心電図異常を認めたが、この心電図異常に関与する因子としては、年齢、糖尿病性腎症、高血圧、罹病期間、高脂血症、喫煙の順に重要であり、糖尿病患者の場合、喫煙は予想されたほどの重みがないことを報告している。Warram ら15)は、蛋白尿を伴うインスリン依存型糖尿病患者を対象にした研究で、喫煙は心疾患死亡の危険因子ではなかったと報告している。糖尿病では、伴っている合併症の違いなどにより、喫煙の重みに差が生じる可能性も推測される。
一方、喫煙と脳出血に関しては、有意な関連があるとする報告や関連はないとする Forelholm ら16)の報告があり、喫煙は心疾患の場合に比し脳血管障害には影響が少ないのかもしれない。しばしば下肢の切断を伴う閉塞性動脈硬化症については、喫煙が危険因子であり、また喫煙者の場合、皮膚潰瘍の治癒も悪いと報告されている。
4)喫煙の糖尿病性神経障害に及ぼす影響
井村ら44)は、糖尿病患者を非喫煙者 (N)、少量喫煙者( 20 本/日以下:S)、大量喫煙者( 20 本/日以上:H)に分類して、合併症との関連を検討した。糖尿病性神経障害を合併している例は H 群で 43% と、S 群の 23%、N 群の 30% に比し、有意に高率であった(表-2)。糖尿病性網膜症の合併率は、喫煙各群で差を認めなかった。また糖尿病性腎症については、H 群で 36% と、S 群、N 群の約2倍の高率であった。このように著者らの成績では、糖尿病性細小血管障害のうち、糖尿病性神経障害と糖尿病性腎症は大量喫煙者に高率に出現するのが認められ、これらの合併症に喫煙が関与することが示唆された。
清野ら45)46)は、健常人を対象に両切りピースを喫煙させ、その前後で、振動覚検査、心臓自律神経機能検査、局所皮膚組織血流測定を施行し、つぎのような結果を得た。
(1)喫煙により振動覚閾値の上昇を認めた。この上昇はとくに下肢で顕著であった。
(2)安静時心電図 R-R 間隔の変動係数は、喫煙によって低下する傾向が認められたが、深呼吸時の心拍数の最大変動幅は一定の変化を示さなかった。一方、起立時の最大心拍増加数は喫煙により減少する傾向が認められた。
(3)レーザードップラー法で測定した指先の皮膚組織血流は、喫煙によりただちに低下した。また、喫煙により血流パターンに変化が認められた。すなわち、喫煙前には深呼吸によって一過性の血流低下が生じたが、喫煙中にはこのような血流低下は不明瞭になった。
以上の成績から、喫煙は、直接あるいは組織血流の低下を介して、知覚神経や自律神経に影響を及ぼすことが示唆された。
Bergenheim ら17)は、振動覚閾値には年齢、罹病期間、高身長が重要な因子であり、喫煙の影響は比較的小さいと述べている。また、5年間の経過を追った成績で、神経障害悪化に影響したのは血糖コントロールであり、喫煙やアルコールの関与はなかったとしている。今後の研究課題である。
Lehtinen ら18)は、NIDDM 113 名、コントロール 127 名について、神経伝導速度を糖尿病診断時と5年後に測定し、糖尿病患者のうち 12 名で有意な機能の低下を認め、これらの患者は血糖コントロールが不良であったが、喫煙などに関しては有意の差を認めなかったと報告している。
5)喫煙の糖尿病性網膜症に及ぼす影響
喫煙が網膜症に対して有害であると最初に報告したのは、Paetkau らである。この報告によると、糖尿病患者では喫煙量の多いものに増殖性網膜症が多く、注目された。しかし、これに対しては否定的な見解も発表され、以後議論の分かれるところとなった。その後 Kleinら19)は、米国 Wisconsin において大規模な疫学調査を行った。その結果、糖尿病の発症に関して、年齢、罹病期間、喫煙歴など種々のパラメーターを用いて解析しても、喫煙が網膜症の危険因子であるとする根拠は得られなかった。最近の報告でも、網膜症の出現に喫煙は寄与しないというものが多い。しかし、Marshall ら20)は、277 名のインスリン依存型糖尿病患者(罹病歴9.7±3.9 年)について平均 2.7 年の観察を行い、網膜症の発症、進展に関与する因子としては、年齢、罹病期間、HbA1c、および血圧をあげているが、喫煙はステージ 2.3 の単純性網膜症の進展と有意の関連をもつことを確認している。また網膜症や黄斑症の危険因子として、罹病期間、高血圧、性とともに、喫煙をあげている報告もある。Moss ら21)は、30 歳未満発症 1,210名、30 歳以上で発症した1,780名の糖尿病患者のうち診断時網膜症を認めなかった患者について、網膜症の発症率を検討したところ、喫煙の影響は認められなかった。しかし、診断時にすでに増殖性以前の網膜症を有していた患者について進展度を観察したところ、若年者、高年非インスリン治療者では喫煙の有無による差は認められなかったが、高年インスリン治療者では喫煙群で進展率が大きかったとしている。Morgado ら22)は、網膜血流に及ぼす喫煙の影響を糖尿病者と正常者で比較したところ、血流の低下はそれぞれ 9.6±12%、16.4±13.8% であり、血流減少がみられている。さらに、喫煙後に 60% 酸素吸入で正常者群は 9.6±4% 血流量が減少するのに対し、糖尿病者では減少がみられていない。したがって、糖尿病者では血中酸素濃度に対する血流の autoregulation が欠如し、これが網膜症の進行に対し、有害な影響を及ぼす可能性があると結論している。
このように、喫煙の糖尿病性網膜症に対する影響については一定の結論は得られていないが、すでに網膜症が発症したものについては、その進展に影響する危険因子として働く可能性もあり、注意が必要であると考えられる。
6)喫煙の腎症に及ぼす影響
喫煙と糖尿病腎症の関係については、当初、喫煙者に糖尿病腎症の発症率が高いと報告されたが、その後、喫煙は糖尿病者における蛋白尿の出現には影響しないという否定的な成績も報告されている。
インスリン依存型糖尿病を対象にした報告をみると、Telmer ら23)は大量喫煙者では腎症の発症が有意に高率であるとしている。最近の報告でも、IDDM の経過を観察しているイギリスの早期腎症研究グループ24)によると、初期の尿アルブミン排泄量の高値例、高血圧例、喫煙者は早期腎症になりやすいと結論している。また、Klein ら25)は血糖コントロール、喫煙は顕性蛋白尿の修飾因子としての意味をもつと述べている。Sawicki ら26)は、高血圧、糖尿病性腎症を有する IDDM について、腎症の進展と喫煙との関係について調査したところ、喫煙者 (34 名)、非喫煙者 (35 名)、過去に喫煙歴を有するもの (24 名)のうち、1年間に腎症の進展したものはそれぞれ 53%、11%、33% と、喫煙の影響を認めている。Olivariusら27)は、デンマーク人の 40 才以上で新たに糖尿病と診断された患者 1,267 名について、年齢、性別を補正すると、尿アルブミン/クレアチニン比は喫煙と有意に関連していると述べている。
肥満
1)喫煙と体重
従来より禁煙することによって体重が増加することが指摘されている。喫煙と体重に関する報告についてみると、Lissner ら28)は、スウェーデン人の女性について調査し、喫煙者は非喫煙者に比し有意に肥満が少ないが、BMI(Body Mass Index:体重/身長2) が同程度のものを比較すると、喫煙者で上半身(内臓)脂肪の沈着が多いと報告している。さらに、禁煙によって体重が増加する場合でも、内臓脂肪の沈着は少ないとしている。Weekley ら29)は、体重コントロールのための喫煙という観点から検討を加え、体重コントロールのために喫煙する人は以前に禁煙したところ体重が増加した、教育程度が低い、喫煙で欲が抑制される、両親の体重が多いなどの特徴を有し、とくに女性では以前に禁煙をしようとして体重が増加した人に、体重コントロールのために喫煙をする傾向があると報じている。また約 89 万人を対象とした前向き調査30)では、喫煙者は一般的に非喫煙者、過去喫煙者に比し体重が軽い傾向にあったが、大量喫煙者(1日40本以上)では、中等度以下喫煙者(10~20本)に比し、中等~高度肥満者が多く認められている。さらに、禁煙の影響について1,633名の男女について検討した成績31)があるが、それによると平均 BMI は過去喫煙者>非喫煙者>喫煙者の順で、女性では禁煙後年を経ると BMI は減少していくが、男性では有意な変化はみられない。ただし、BMI>30 の高度肥満者の割合は、男女ともに禁煙後時間の経過とともに減少する。このように、喫煙者では全般に体重の少ないものが多いが、高度肥満例ではこのような傾向がみられず、喫煙以外の因子の関与が大きい可能性が考えられる。さらに、遺伝因子を加味した喫煙の影響を解析するために、Eisen ら32)は 1,911 組の一卵性双生児間の比較を行った。一卵性双生児で喫煙者の体重は非喫煙者である双生児の一方よりも、軽度喫煙者(1~19本)で 3.2Kg、中等度喫煙者(20~29本)で 2.4Kg、大量喫煙者で(29本以上)4Kg 軽い。過去喫煙者では臨床的に有意な肥満(BMI 27.8 以上)の頻度が、現在喫煙中の双生児の片方に比し 33% 高く、とくに大量喫煙者と比較すると 1.8 倍高かった。
このように喫煙によって肥満が抑制される可能性があり、本財団の研究助成によってそのメカニズム解明のプロジェクトが進められた。
吉田ら47)48)は、マウスに強制喫煙させると体重が減少することを明かにした。このような現象は MSG 肥満マウスにおいても認められ(表-3)、その機構として、喫煙は、交感神経中枢である視床下部腹内側核を活性化させ、褐色脂肪組織でのノルエピネフリン turnover を増加し、その結果褐色脂肪組織熱産性能を亢進させ、体重減少が生じるとしている。さらに、このような減少は低ニコチンたばこの喫煙では認められず、ニコチンの直接投与により喫煙と同様な現象が認められたことから、たばこ煙中の抗肥満物質としてのニコチンの役割を明確にした49)。
井上ら50)51)は、VMH(Ventromedial Hypothalamic nuclei:視床下部腹内側核)破壊肥満ラットを強制喫煙させると体重減少が生じることを報告し、その原因の一つに胃酸分泌低下による消化吸収の抑制があるのではないかとしている。さらに、Zucker 肥満ラットにおいても同様の現象を認め、このような現象は肥満動物で顕著であったとしている。
倉橋ら52)53)は、たばこ煙中の成分のうち2M2B30、3M2B40 の経口投与で摂食や体重減少が生じると報告し、その機序として血中グルコース低下による体脂肪の動員を挙げている。また、2H40 は、摂食量に影響することなく Zucker fatty ラットの体重増加を抑制し、本剤は褐色脂肪組織の温度には影響しなかったので、その効果は脂肪組織以外での代謝促進作用によるのではないかと推測している。
その他
喫煙が骨塩含量を減少させることが従来より指摘されていた。最近の Aloia ら33)による報告でも、閉経前の白人女性の骨塩量は喫煙と負の相関を示している。本財団による助成研究において、藤田ら54)55)は、慢性透析患者においては喫煙は骨塩含量減少のリスクファクターにならないこと、喫煙妊婦から生まれた子供の骨塩量は非喫煙者の子供のそれと差がないことを認めている。そして、藤田らは、40才以降の女性について検討を加えたが、骨量に喫煙は影響しなかったと結論している。さらに彼らは56)、ニコチンの破骨細胞の形成への直接作用を検討したが影響はみられず、ニコチンがカルシウム代謝調節に関与する可能性は否定的であると述べている。このように、わが国では欧米と異なり、喫煙が骨塩含量を減少させるとする成績は得られていない。
また三輪ら57)は、喫煙の赤血球エネルギー代謝への影響を検討しているが、あまり影響は認められなかったと報じている。
*1京都大学医学部病態代謝栄養学
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35) | 春日雅人、為本浩至、百村 薫ほか 喫煙の糖代謝に及ぼす影響.平成元年度喫煙科学研究財団研究年報:327-329. |
36) | 春日雅人、東 晋也、小川 渉ほか 喫煙の糖代謝に及ぼす影響.平成2年度喫煙科学研究財団研究年報:337-339. |
37) | 春日雅人、西山和之、米沢一仁ほか 喫煙の糖代謝に及ぼす影響.平成3年度喫煙科学研究財団研究年報:359-363. |
38) | 春日雅人、宮田 哲、小原 毅ほか 喫煙の糖代謝に及ぼす影響.平成4年度喫煙科学研究財団研究年報:371-374. |
39) | 春日雅人、宮田 哲、大原 毅ほか 喫煙の糖代謝に及ぼす影響.平成5年度喫煙科学研究財団研究年報:423-427. |
40) | 井村裕夫、清野 裕、津田謹輔 喫煙の糖・脂質代謝並びに動脈硬化発症に及ぼす影響.昭和63年度喫煙科学研究財団研究年報:398-404. |
41) | 井村裕夫、清野 裕、津田謹輔 喫煙の糖・脂質代謝並びに動脈硬化発症に及ぼす影響.平成元年度喫煙科学研究財団研究年報:330-334. |
42) | 井村裕夫、清野 裕、津田謹輔 喫煙の糖・脂質代謝並びに動脈硬化発症に及ぼす影響.平成3年度喫煙科学研究財団研究年報:364-368. |
43) | 井村裕夫、清野 裕、津田謹輔 喫煙の糖・脂質代謝並びに動脈硬化症に及ぼす影響.昭和62年度喫煙科学研究財団研究年報:417-421. |
44) | 井村裕夫、清野 裕、津田謹輔 喫煙の糖・脂質代謝並びに動脈硬化発症に及ぼす影響.平成2年度喫煙科学研究財団研究年報:340-344. |
45) | 清野 裕、津田謹輔、瀬野倫代 喫煙の糖尿病・脂質代謝並びに動脈硬化発症に及ぼす影響.平成4度喫煙科学研究財団研究年報:375-377. |
46) | 清野 裕、津田謹輔、藤田 準.喫煙の糖・脂質代謝並びに動脈硬化発症に及ぼす影響.平成5年度喫煙科学研究財団研究年報:428-431. |
47) | 吉田俊秀、吉岡敬治、近藤元治ほか 喫煙の抗肥満機序および抗肥満物質解明に関する研究:喫煙の褐色脂肪組織への影響.昭和62年度喫煙科学研究財団研究年報:760-765. |
48) | 吉田俊秀、吉岡敬治、近藤元治ほか 喫煙の抗肥満機序および抗肥満 物質解明に関する研究:喫煙によるMSG肥満マウス褐色脂肪組織活性化.昭和63年度喫煙科学研究財団研究年報:417-423. |
49) | 吉田俊秀、吉岡敬治、近藤元治ほか 喫煙の抗肥満機序及び抗肥満物質解明に関する研究:喫煙におけるニコチンの褐色脂肪と全身代謝の活性化.平成元年度喫煙科学研究財団研究年報:356-363. |
50) | 井上修二、富永静男、並木庸浩 喫煙の肥満に及ぼす基礎的研究:視床下部腹内側核破壊ラットの胃酸分泌動態.平成2年度喫煙科学研究財団研究年報:362-365. |
51) | 井上修二、江川正人、並木庸浩ほか 喫煙の肥満に及ぼす基礎的研究:視床下部腹内側核破壊肥満ラットの喫煙による体重、胃酸分泌能と胃粘膜防御系の変化.平成3年度喫煙科学研究財団研究年報:379-382. |
52) | 倉橋和義、嶋路久延、白波瀬弘明ほか たばこ成分と肥満抑制に関する研究.平成2年度喫煙科学研究財団研究年報:355-361. |
53) | 倉橋和義、嶋路久延、白波瀬弘明ほか タバコ成分の肥満抑制に関する研究.平成5年度喫煙科学研究財団研究年報:449-453. |
54) | 藤田拓男、深瀬正晃、筒泉正春ほか 骨の老化と喫煙に関する研究:喫煙が透析患者骨塩量と血中副甲状腺ホルモン(PTH)値に及ぼす影響について.昭和62年度喫煙科学研究財団研究年報:422-426. |
55) | 藤田拓男、深瀬正晃、杉本利嗣ほか 母親の受動及び能動喫煙と出生児の骨塩含量に関する研究.平成2年度喫煙科学研究財団研究年報:368-371. |
56) | 杉本利嗣、金谷正則、塚本達雄ほか 喫煙のカルシウム代謝調節機構に及ぼす影響:ニコチンの破骨細胞様細胞形成に対する効果.平成5年度喫煙科学研究財団研究年報:454-457. |
57) | 三輪史郎、川口敦子、岡村裕加子ほか 喫煙の赤血球代謝に及ぼす影響.平成3年度喫煙科学研究財団研究年報:355-358. |